深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

ミスト/スティーヴン・キング〜壮大な美が存在ように暗黒と恐怖が存在する〜

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《内容》

「ミスト」として映画化され、TVドラマ化もされたスティーヴン・キングの代表作「霧」。スティーヴン・キング通が口をそろえて、「はじめてキングを読むのなら『霧』から」とオススメするホラー史上に残る傑作です。この「霧」を収録したキングの短編集『SKELETON CREW』から、傑作を選りぬいて編んだ作品集です。

 

映画「ミスト」は有名ですよね。

ミスト(字幕版)

ミスト(字幕版)

  • トーマス・ジェーン
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キング久しぶりに読んだけど、やっぱりすごいな。

設定が細かくて、まるでキングがその場にいて緻密にスケッチしたみたいな描写力。怖さは正直ほとんどない。でも、題名の「ミスト」はぐんぐん読ませてくる。ページを捲る手を止めることができない。

 

キングは映画も面白いけど、原作も本当に面白い。

 

終わらない恐怖

 

 なにかがやってきたーまたもや、わたしが確信を持っていえるのは、これだけである。霧のために、かすかにしか姿をとらえられない、というのが実情だったのかもしれないが、人間の頭脳が断じて受けつけないようなものが存在する、ということもまた、おなじようにあり得るとわたしは思う。人間のちっぽけな知覚の扉を通りぬけることのできない、暗黒と恐怖が存在するのだーそれと同様な、壮大な美が存在するのとおなじように。

 

 主人公のデヴィットはロングレイクの湖畔に住んでいた。ある日、嵐がやってきた。デヴィットと妻と息子のビリーは強い竜巻が過ぎ去るのをじっと待つ。嵐、竜巻、停電、突風・・・家は大きく揺れ、木々は倒れ、電気は途絶えた。しかし翌日にはすっかりと晴れ上がった。デヴィットは家を出て辺りを一望する。湖の上に白く大きな霧が浮かんでいて、それは刻一刻とこちらに迫っているように感じる。

 

 何はともあれ町に食料の調達に行こうとデヴィットはビリーと隣人のノートンを乗せて家を出る。これが妻との最後の別れとも知らずに・・・。

 

 

男が〈入り口〉のドアを乱暴に押しあけて、よろめきながらマーケットにはいってきた。鼻から血が流れている。「霧のなかに何かいるぞ!」男が叫ぶと、ビリーが竦み上がってわたしに寄り添ってきた。男の血まみれの鼻のせいか、彼の言ったことのせいなのか、どちらかはわからない。「霧のなかに何かいるぞ!霧のなかの何かがジョン・リーをさらっていった!何かがーー」男はうしろによろめいて、窓ぎわに積みあげてある芝生用肥料にぶつかり、そこに座りこんだ、「霧のなかの何かがジョン・リーをさらっていった。おれは悲鳴を聞いたんだ!」

 

 デヴィットたちがマーケットに着くと、おなじように数日分の食料を求めた人たちでいっぱいだった。停電の影響でマーケットの自動ドアは閉まったきりになり、レジは手作業になっていた。デヴィットは渾身の力を込めて自動ドアを手で開けた。そして買い物リストを一つずつ埋めて、レジへ続く長い列に並んだ。

 

 すでに駐車場は深い霧の中に沈み、マーケットを出た者は決して戻ってこなかった・・・。

 ミストは中編で、他に短編がいくつかあるのですが、やはりミストがダントツで面白い。まるで本当にあったかのような詳細な描写。キングはもう一つの世界を持っているんだな、と改めて感じた作品でした。