深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

湖の女たち/吉田 修一〜女のなかには自分を破壊しようとする衝動的な力がある〜

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《内容》

琵琶湖近くの介護療養施設で、百歳の男が殺された。捜査で出会った男と女―謎が広がり深まる中、刑事と容疑者だった二人は、離れられなくなっていく。一方、事件を取材する記者は、死亡した男の過去に興味を抱き旧満州を訪ねるが……。昭和から令和へ、日本人が心の底に堆積させた「原罪」を炙りだす、慟哭の長編ミステリ。

 

 吉田修一作品を読むと男女の関係性は恋愛でも夫婦でもカップルでもなくて「共犯」という言葉がピタリと合う。愛だとか利害関係だとかそういうのをすっとばして原始的な罪で繋がった二人、みたいな。

 

 私は「悪人」が大好きなんですが、それにしても今回の男と女の関係性は”運命”過ぎる。けど、それは悪人の祐一が一般人で、本作の圭介が刑事だからなのかな。刑事だから、出会ってすぐの相手の心の隙を見つけられた。そういうことかな?

 

 

女のなかには自分を破壊しようとする衝動的な力がある。

 

(深い河/遠藤周作)

 

 

乱暴と待機

 

 どちらも真実だと思うから、糸が絡み合うのだと検察官や伊佐美は考えている。じゃなくて、どちらも嘘だと思えばいいと。目の前にいるのは、二人の正直者ではなく二人の嘘つきだと。ならば、二人のうち、弱そうな嘘つきの方を罰しようと。

 

 琵琶湖近くの介護療養施設もみじ園100歳の入居者が死んだ。人工呼吸器をつけて療養中だった。焦点は人工呼吸器に誤作動があったか、施設側の業務上過失致死なのか、になる。しかし人工呼吸器に誤作動があった場合アラートがなるため、製造会社は可能性を否定。さらに、当時入居者の担当をしていた介護士もアラートは聞こえなかったため異変に気づけなかったと供述。

 

 刑事の濱中圭介は先輩の伊佐美とともに事件を追うが、両者の意見は対立し何が真実なのかはわからない。しかし事件は解決せねばならない。すると警察は会社ではなく個人である当時の介護士を犯人に仕立て上げようとシナリオを作り出していく。

 

 

「お前の体は俺のもんやからやろ?お前の人生は俺のもんやからやろ?俺のためだけに生きるって約束したからやろ?」

 

 濱中圭介は事件現場で働いている佳代と車両事故によって歪な関係を結んでいく。イケメンでお似合いの妻がいて生まれたばかりの子供がいる。表面上は順風満帆な人生だが、彼は一人早朝の湖に車でやってきて、車内でサディスティックなエロ動画を見ながら自慰にふける。

 先輩の伊佐美からの抑圧というストレスをこういった形で発散しているのだろう。一人で行う分にはさして問題がないようなこの行為に圭介は佳代を巻き込んでしまう。

 

 

 自分の体も心も捨てられる。あなたの快楽のためだけに生きる。それだけのために生きていく。それが私の一生であっても、なんの悔いもない。

 そう、口だけならなんとでも言える。

 でも、口だけではもう満足できなくなっていた。それだけじゃ麻痺した体がもうゾクゾクしなくなっていた。

 

 一方佳代は圧倒的な力でどこかに連れ去ってほしいという願望を幼少期から持ち続けていた。それは祖母が話してくれる天狗の話に由来していた。怖い天狗に攫われる話。ここではないどこかへ連れ去ってくれる誰か。それを圭介に求めていたのだ。

 

 まさに「乱暴と待機」という言葉が当てはまる。

 湖は待機し、そこに石が投げ入れられる。人と人とが出会うことで静かな湖に波紋が広がっていくのだ。それは何も友人や家族だけではない。ある事件をきっかけに出会った通りすがりの人。SNSで知り合った面識もない他人。だけどそれが自分の心の中の水面を大きく揺らす。

 

 いや〜そういえば吉田さんの作品は性的な内容がいつもあったのを忘れてたので、いきなり圭介と佳代が関係を持ったときは「おいおいおい!」と言ってしまいました。笑