深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

夏の終り/瀬戸内 寂聴〜その男は私がいないと死んでしまうのではないかと思って離れられない〜

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《内容》

妻子ある不遇な作家との八年に及ぶ愛の生活に疲れ果て、年下の男との激しい愛欲にも満たされぬ女、知子……彼女は泥沼のような生活にあえぎ、女の業に苦悩しながら、一途に独自の愛を生きてゆく。新鮮な感覚と大胆な手法を駆使した、女流文学賞受賞作の「夏の終り」をはじめとする「あふれるもの」「みれん」「花冷え」「雉子」の連作5篇を収録。著者の原点となった私小説集である。

 

 

ままならぬ恋

 

日ざしのきらめきには夏の猛々しさがのこっていたが、空の青さの底にはすでに、疲れを沈めたような夏の終わりのなまめきがあった。
日かげの風は、さわやかな涼気をかすかにふくんでいた。
 夏がものうそうにすぎようとしていた。知子にはこの夏がたいそう長かったような気がした。

 

 主人公の知子既婚者の慎吾知子の元恋人の年下の男・涼太
 この三角関係を描いた作品です。
 
 独特なのは、慎吾の妻も知子の存在を知っていて、こちら側の三角関係は奇妙に安定しているのです。
 間違った安定を崩すのは簡単なことではない。皆奇妙だとながら日常になってしまった三角関係を壊す気力は無いのだ。

 

すでに八年もつづいてきた知子と、慎吾と、慎吾の妻との関係は、放っておけばこのまま永遠につづきそうにみえた。最初から、妻と知子がお互いの存在を黙認しあっての妥協の上になりたった関係が、最初は誰の我慢や犠牲で成立したものやら、もはや探し出しようもないほど歳月の埃にまみれていた。
 正常な感じやすい神経や感情は鈍磨して、救いようがない膠着状態に陥っていた。

 

 しかし涼太は違う。涼太はこの物語の中で"世間"の目を持っている。
 間違っているのだと知子に言い、この関係に目をつむり続ける三人の不道徳に病んでいくのだ。けれども知子はそんな涼太を疎ましく思い妻子のいる慎吾ではなく、独り身の涼太との関係を断ち切るのだ。

 

 この物語は自立した女性の奔放な恋の終わりを描いている。私小説というから寂聴さんの人生の一部なのだろう。

映画の知子(満島ひかり)が桃を丸齧りしてしゃぶるのがめちゃくちゃ色気ありました・・・

 私がいないと死んでしまうのではないかと思って離れられない。女の性のような作品でした。