深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】ニンフォマニアック~愛の名の下に100件の犯罪が起きるならセックスの名の下には1件よ~

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≪内容≫

自らを色情狂と認める女性の半生をVol.1、Vol.2の2部構成で描き切った作品。全編至るところに盛り込まれた過激なセックス描写にとどまらず、物語、映像、演技、ディテールのあらゆる面で、前代未聞のサプライズに満ちた衝撃作となっている。

 

人に人は救えない。 

どんなにイイヤツでも善人と呼ばれてる人間でも神様じゃなくて私たちと同じ人間なのだ。だから勝手に相手を神様に祀り上げても救われないし、相手も迷惑。ジョーの言う「唯一の罪」とは、他人に人間以上の救いや愛を望んだことを意味するのではないかな。

 

ラース・フォン・トリアー作品

ダンサー・イン・ザ・ダーク

アンチクライスト

ニンフォマニアック

 

性に溺れ愛を失う

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愛は物事をゆがめる
愛は求めてもいないものよ


エロスは男に強く求めていたけど
あんな愚かしい愛は・・・屈辱的に感じたわ


愛は不誠実なものだから
エロスは"イエス"と言うこと


でも愛は嘘をまとい最も低俗な本能に訴える
イエスなのにノーと言ったり


その逆も
そんな自分を恥じた
だけど制御不能だった

 

 主人公・ジョーは言います。

 愛の名の下に100件の犯罪が起きるならセックスの名の下には1件よ。と。愛さなければ、嫉妬も苦しみも、嘘を吐くこともなく快楽だけを素直に受け取れる。愛のないセックスでは快楽を得ることが出来たのに、数あるセフレの一人であるジェロームに執着するようになりジェロームとだけセックスをするようになったら快楽は消えてしまった。

 

 この物語は主人公・ジョーが裏路地でボロ雑巾のように捨てられていたところを家に連れて帰って面倒を見てくれたセリグマンに自分の過去と愛についての見解を述べる、というのが二部合わせて約4時間の大骨になっています。

 セリグマンは独身だし上の画像にあるように白髪が薄くなっているご年配なのでジョーがそういう性的な話をしても僕達の関係は何も変わらない、なんでも話してごらん、と紳士然で終始ジョーの話の聞き役に徹する

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複雑なスケジュール管理をうまくこなした

日に10回もの性的欲望を満たすために


フルタイムの仕事もある
それでもなぜか悲しい


忙しい中、時間があれば散歩をして過ごした
繰り返される散歩は私の人生のメタファー


単調で意味がない
そう 檻に入れられた獣の動き
死ぬ許可を待ち続けている

 

 ジェロームに好意を伝える前に、ジェロームは他の女性と結婚し旅に出てしまった。それ以来ジョーは更に性的欲望が増し、色んな男とセックスをするも満たされない。しかし、あるとき日課の散歩の途中にジェロームと再会する。ジョーはいつも通りセックスをしますが、急に何も感じなくなってしまいます。

 

 溢れ出る性的欲望を満たすために、自分の日程を決める。スケジュール設定して毎日決まった時間に決まった人を呼んで帰してまたやってきての繰り返し。この時点で欲望は意味を失い、ただの日常と化した

 

 愛を手に入れたら快楽を失った。欲望を手懐けたら形を失った。愛を取っても失い、欲望に身を任せて失う。金持ちになりたいとか、美しくなりたいとか、そういう欲望は札束なり美貌なりと形となっておりてくるのに、愛とセックスにまつわる欲望は求めたら求めた分だけ自分の中から何かが消えていく

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私が他の人々と1つだけ違うのは
夕陽に多くを求めすぎたことかも
地平に沈む時もっと壮麗な色を見せてほしいと
それが私の唯一の罪ね

 

 最後にジョーの話の聞き手だったセリグマンはもしこの話が男の話だったならここまで悲惨になるかね?と言います。

 

 男なら、電車の中で女を漁ろうが、色んな女とヤリまくろうが、子供と妻を捨ててSMに走ろうが、そこまで非難されたかね?これは性差別だ!というようなことを言う。その言葉にジョーはセクシュアリティを捨てると決心します。

 

 ジョーが打ち捨てられてしまったのはいわば「性欲」に突き動かされていたわけだから、その性欲の根源であるセクシュアリティを捨ててしまえば、もう性欲に自分が振り回されることもないと思ったわけです。実際目の前に高齢になるまで一度も性欲にひれ伏すことなく、今もこれからもそれを貫こうとしている生きた人間がいたのだから、ジョーにとってセリグマンは救世主だったわけです。しかしジョーが見つけた救世主は仮初の姿で、本当は性欲を隠していただけだったのだ。 

 

 別にいいじゃん。色んな男とヤってきたんだし。ジョーにそう吐き捨てたセリグマン。さてジョーはセリグマンの多くを求めすぎたのでしょうか。

 

 結局、マイノリティ側に生まれた人間に救いはない。性欲にとりつかれた人間は一生性欲から逃れるためにセックスを求め続ける人生を送る。性欲から逃げている人間は逃亡途中で出会った人間を愛すると快楽も痛みもない無痛状態に確変し、また逃げることを促される。安住の地は無く、永遠に彷徨うカインよろしく踊る赤い靴よろしく死ぬまで苦しみは終わらない。

ニンフォマニアック Vol.1/Vol.2 2枚組(Vol.1&Vol.2) [DVD]

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 創作する人ってどこかに救済案というか抜け道みたいなものありきで観客を車に乗せてくれるんだけど、トリアー監督は死なばもろとも発進なので、謎の一体感というか連帯感が生まれる。