深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】ダンサー・イン・ザ・ダーク~はたして救いはないのだろうか~

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≪内容≫

2000年デンマーク映画。1960年代アメリカ。セルマは息子のジーンを一人で働きながら育てていた。理解と愛情を持つ人に囲まれ満ち足りた生活を送っていたが、彼女は遺伝性の病気で視力が失われつつあり、息子のジーンも手術を受けないと同じ運命を辿ってしまう。そのため内職もしてジーンの手術費用を稼いでいたが、ある日工場を解雇され、貯金まで盗まれていた…。

 

鬱映画と名高いこの作品。

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 こないだニンフォマニアックをみてから、この監督の映画とりあえず見ようと思い今回は「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を。

 次は「メランコリア」観ようと思います。

 

 本当にやるせない悲しみの渦なのですが、感動とは違うのですが、とても好きな映画になりました。

 これは悲観的な現実と夢想の中の大好きなものが詰まった世界の対比がそうさせているのかもしれません。

 この構図はパンズ・ラビリンスと同じです。

パンズ・ラビリンス (字幕版)

パンズ・ラビリンス (字幕版)

 

 一番好きな映画が「パンズ・ラビリンス」だから、私はこういうのが好きなんだなーと実感。ただ「ダンサー・イン・ザ・ダーク」はビョークの歌がすっごい好きというのもあると思います。声とか、歌詞とか、すごく好きだなぁって思いました。

 

1960年代アメリカとチェコ

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↑工場内のダンスシーン、カティンザクラッシュダーウン♪(空耳)

チェコ出身のセルマは息子の目の治療のためにアメリカに移民としてやってきた。

チェコは当時チェコスロヴァキア(ソ連)で、アメリカと冷戦中。

 

セルマには重要な設定があり

①彼女が移民である

②アメリカが共産主義を毛嫌いしている

この二つが物語の鍵です。

 

 彼女は周りの思いやりと思える行動を断ったり、本当の事を話したりしません。

 最後はその結果ともいえるかもしれませんが、弱視であることだけでなく移民という立場で、周りの人にそこまで心を開けるのかな?と思うのです。

 彼女は最後に「私はそんなに強くなかった・・・」というのですが、それはつまり「弱音を吐かない」ことや「頼らない」ことが強さであると思っていたからです。

 

 彼女のように周りになるべく迷惑をかけたくないと思うことが結果的に周りを悲しませたり苦しませることになることを、人はどこかで誰かに気付かされると思います。

 なぜならこの感覚は自分一人では身につかないものだからです。

 しかし、セルマには最後の最後まで気付く時がなかった。

 彼女の家族や旦那、友達などの描写が一切ないので憶測ですが彼女は深く付き合える人間がいなかったのではないか、もしくは「大丈夫」という言葉で拒絶してきたのではないかと思います。

 

親切とは見返りを求めないこと

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↑どうでもいいのよ と続く

 

 セルマにとって一番大事なのは息子のジーンです。

 人が決めることではない、彼女が決めることです。

 裁判で「あなたは親切な友人を裏切った」みたいなことを言うんですが、すごい恩着せがましいなーと思います。

 まさに、善意を踏みにじった悪人だと言っている。

 

 まず、隣人のビルが息子のジーンに自転車を買ってあげるシーン。

 セルマはジーンが皆持ってるから欲しいとせがんでも「お金がないから無理」と断ります。

 しかし本当はお金もそうだけど、それ以上にいつ視力が衰えるかも分からないジーンに自転車に乗って欲しくなかったんだと思います。

 彼女は獄中で「今手術しなきゃ一生見えないかもしれない」と言っていますし、確実にジーンの視力の限界が来てることを予知していたと思います。

 それなのに、買ってあげた=親切にしてあげた=悩み聞いてよ=金貸してととんでもない貸しを背負わされる。

 

 それから友人のキャシーがもう一度裁判をやり直すために、ジーンの手術代を勝手に弁護士に渡したシーン。

 私が一番悲しかったのはここのシーンです。

 自分の一番大切なもののため、命をかけて守ったものを、勝手な「親切」で奪われた瞬間

 セルマはキャシーにジーンに使うように説得するも「母親が大事よ!」と聞く耳を持たない。セルマは「目が大事なのよ!」と何度も訴えるのだが、キャシーにはセルマの目が見えなくなる恐怖、それによってどんな問題があるのか、作中での描写はないけど、そのせいでどれほどのハンデを背負ってきたか、そういう背景を想像できないから自分のものさしで幸せを計ることしかできないのです。

 

 キャシーの行いは一般的に善意でしょう。間違いではない。

 もし、まだセルマがそのお金を何にも使っていなくて用途を誰にも話してなかったなら、キャシーの行動は当然のように思えます。

 でもセルマは医者に渡してるのです。

 人の望みを善意で踏みにじる。

 二人の踏みにじり方は天と地ほどの差があれど、自分の価値観を押し付けているのには変わりないと思ってます。

 自分が行った善意が本当に「善」になるかは受け手に委ねられているのです。

「誰かのために何かをしたい」って何故あたかも相手がそれを待ち望んでるかのように思える?

もし、誰かのために何かをしたいと思うなら絶対に見返りを求めてはいけない。

それは善意ではなく、相手を地獄に突き落とす道を作ってるに過ぎないのだから。

 

 

もう他に見たいものはないのよ

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↑死刑台までの107歩を華麗にステップ

 

 セルマはもともと目が見えなくなったら死ぬ気だったんじゃないかなぁと思うんです。

 ジーンを厳しくしつけるのも、リンダたちに世話になっていたのもその布石だったんじゃないかなぁと思うのです。

 実際、工場をクビになっていたので今までの貯金を全部ジーンの手術台にあてたらお金はなくなります。目が見えなくても出来る仕事の紹介も断っていますし。

 二人で生活するのにジーンに面倒を見てもらうことになってしまうし、それにしてはジーンは幼すぎる。でも幼いからこそ、自分がいなくても誰かが面倒を見てくれるかもしれない。ジーンひとりなら。

 

 だって見るって目だけじゃなくて心の目とかいうじゃないですか。

 だから「すべてが見えたから、もう他に見たいものなどないの」という気持ちになるのって悔いはないって感じがして。

 

 セルマが殺したビルですが、こいつもとても謎です。

 裁判で「彼は貯金もあるし、夫婦仲も良好、仕事も良好なのになぜ殺してくれなんて言うんだ!」と言っています。

 しかし、ビルは「もうお金がない、でもリンダの為にソファを買わなきゃ、リンダに嫌われたくない」とか言ってセルマのお金を盗んだけれど、手元に持ってるんですよね。しかも「殺せ!」とセルマに銃を突き付けさせる。

 

セルマももう目が見えてないから、そのまま逃げればよかったのに。

 

 だから多分彼は死にたかったと思います。

 リンダにも同僚にも理解出来ない苦しみがあったんじゃないかなと。

 

 セルマのように目に見える問題(失明)と、ビルのように目に見えない問題があって。

 でも自殺するなんてことは名誉にかけて出来ないから誰かに殺してもらいたかったんじゃないかなと思うんです。

 

 彼女は世間の常識からは外れても自分のルールには一切背いていないんですよね。

・一番大切なのがジーンということ。

・秘密は守ること。

・これは最後ではないということ。

・自分の信じていること、大切にしたいこと。

 これまで色んな人に奪われそうになってきた大事なものをセルマは何一つ手放さずに処刑を受けた

 

 第三者から見ればとてもやるせない出来事だったと思う。

だけど、セルマのお金を盗んだビルも、ビルの嘘に騙されたリンダも、セルマの世話をみてきたキャシーも、セルマに思いを寄せるジェフも、みんなみんな自分が正しいと思ってるんですよ。

もちろんセルマも。

 

 だからこその「救いがない」だと思います。

 救いようがない。

 

監督は道徳がダイキライだそうですが、なるほど。自分の道徳が強ければ強いほど救いようないぜって話でしょうか。

 こういうあたかも悪人でない人だって救いようないぜっていうお話は本当にそうだと思う。この映画を見てセルマとビルだけが悪人だと思うのは違うと思う。ジェフだってセルマを思っていながら、思ってる故に秘密を破るよ。

 この中で悪人でないのはジーンだけ

 

 人を傷付けずに生きるなんて無理。

 自分の価値観を捨てて生きるのだって無理。

 

 じゃあ救いがあるとしたら自分の大事なものを誰にも奪われずに生きることなんじゃないの?って。

 世界で奪われたものの為に奪う事件が多発してるそれくらい、奪われてはいけないものっていうのが誰にもあると思う。

 

私は最後まで奪われずに手放さずに明け渡さずにいたセルマにすごく勇気をもらった。

最後の処刑のシーンは二度と見たくないけど、多分また見るだろうと思う。

多分、とても自分が落ち込んでるときに。

 

 ビョークをこの作品で知ったんですが、それからずっとビョークを聞いてる。