深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】ノーカントリー~一度勝ったなら振り向くな。常に勝ち続けることを考えろ。~

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≪内容≫

第80回アカデミー賞4部門を受賞したコーエン兄弟監督によるサスペンスドラマ。ギャングたちの大金を奪った男と、彼を追う殺し屋、事件の謎に迫る保安官の姿を描く。 

 

原作はこちら

「血と暴力の国」の記事を読む。

映像だとシガーの怖さが倍増するし、死がほんとうにあっけない。

原題「NO COUNTRY FOR OLD MEN 」、年寄りのための国はない。観終わったあと思うのは、人は誰でも年寄りになる。そんであの頃は~とか昔は語る。だけどそんな国はすでに過去の遺産で現実にはないのだ・・・という感じでした。

 

振り向くな前を向け

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この男が追われることになるルウェリン

彼はギャングの抗争らしき跡地で金を拾ったが、その時に死にそうな男が水を欲していたことを思い出して危険極まりない跡地に水を持って戻る

そのせいで彼は殺し屋シガーに発見されてしまうのだった。

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殺人鬼シガー、小説では「お砂糖野朗」とかいうシャレたネーミングも出てきたが、無関係な人間だろうが関係ないぶち殺しまくります。

 

百戦錬磨のシガーだが、ルウェリンが予想以上に逃げまくるし反撃してくるので、シガーはルウェリンと交渉しようとする。お前が出てくれば女房は殺さない、とね。

・・・がルウェリンはそれを断る。別に女房を見殺しにしたわけではなく、ルウェリンはすでに妻と妻の母を移動させていたし、盗んだ金で別のところへまた飛ばそうと計画していたからシガーには見つからないと思っていたのだ。

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シガーは何者なのか?

究極の悪党か?殺人に快楽を感じるサイコパスか?何が目的なのか?

その答えは物語には描かれていません。

私が想像するのは悪ではなく「死」そのものです。死神かな?

「イット・フォローズ」の記事を読む。

このついてくるヤツのリアル版みたいな感じ。

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さてこの物語の語り部は退職間近の老いた保安官です。

彼の冒頭のセリフを少し引用します。

 

どう考えたらいいのか全く分からない
最近の犯罪は理解できない
恐ろしいわけじゃない

 

この仕事をするには死ぬ覚悟が必要だ
必要以上にムチャなことをして
理解できないものに直面したくはない

 

だが魂を危険にさらすべき時は
"OK"と言わねばならない

 

 彼は「昔は~だった」的な語りを何回かしたり、昔の人だったらどう考えるだろう?などど先人に答えを求める。後ろ向きなままルウェリンを救いたいと口では言うけど、結局ルウェリンもその妻も、それ以外の民間人もめちゃくちゃに死んでいったしシガーを捕まえることもできなかった。

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年齢を重ねたら勝手に力がつくと思っていた人間たちが上にいる世界では、若者たちはやりたい放題やられたい放題、止められる人間はおらず止められないと嘆く人間しかいない。

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人生は選択の連続というが、賭けに勝ち続けることでもある。

この話は村上春樹の短編「踊る小人」で分かりやすくかかれていると思う。

「螢・納屋を焼く・その他短編」の記事を読む。

 一回勝っても終わるわけじゃない。そのあと何度も勝ち続けなければならない。ルウェリンは最初の賭けには勝ったが、二回目の賭けで負けたのだ。その支払いが命であり、それを回収するのがシガーなのだ。

ノーカントリー (字幕版)
 

 老人が意味するのが、単なる老いた人間ではなくて、ただ死に向かうだけの人間をさすなら、タイトル「NO COUNTRY FOR OLD MEN」はものすごく耳が痛い言葉です。

一度勝ったなら振り向くな。常に勝ち続けることを考えろ。その賭けは他人が介入することは許されない一対一の孤独な戦いなのだ。