深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

フランケンシュタイン/メアリーシェリー~誰の心にも怪物が住み着いている~

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《内容》

若き科学者ヴィクター・フランケンシュタインは、生命の起源に迫る研究に打ち込んでいた。ある時、ついに彼は生命の創造という神をも恐れぬ行いに手を染める。だが、創り上げた“怪物”はあまりに恐ろしい容貌をしていた。故郷へ逃亡した彼は、醜さゆえの孤独にあえぎ、彼を憎んだ“怪物”に追い詰められることになろうとは知る由もなかった―。天才女性作家が遺した伝説の名著。

 

映画見てモーレツに読みたくなった原作。

www.xxxkazarea.com

 

 昔の海外の小説は割と読み進めるのが大変だったりするんですが、これはかなり読みやすいし、ドキドキワクワクでページをめくる手が止まらなかったです。

 20歳でこの言葉が出てくるってすごいな・・・どんな人生を歩んできたんだろう?そう思う気持ちが分かるくらい、怪物の叫びは胸を打った。

 

己の影の叫び

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人間とは、みじめな存在を憎むもの。ならば、生きとし生けるもののなかでも図抜けてみじめなこのおれが、嫌われないわけがない。だが、おまえまでもが、このおれの創造主であるおまえまでもが、己の手でこしらえたおれを憎み、拒絶するというのか。

 

 自然科学に没頭したヴィクターは何かに取り憑かれたように墓地から死体を掘り起こし、繋ぎ合わせ、新たな生命を創った。

 心身すべてを注ぎ込み生まれた”それ”の目が開いたとき、ヴィクターは恐怖に包まれ逃げ出してしまう。

 あんなに夢中になって取り組んでいたものが容を持って動き出した瞬間、ヴィクターは自分が行った過ちに気づいたのだ。

 人間でありながら”命を創る”という禁忌を犯したことを。だが、生まれた怪物にそんな事情は関係ない。生まれた瞬間から悲しみを背負うこととなった怪物は生みの親であるヴィクターに捨てられる。醜さから姿を現しただけで人から攻撃される。そんな世界で、怪物は言葉を学び、逃げ回るヴィクターに”自分と同じ怪物をもう一体創ってくれ、そうすれば自分はそやつを伴侶とし山奥で静かに暮らすだろう”と、交渉を持ち掛ける。

 ”もし断れば、ヴィクターの大事な人たちの命を奪う”とも。

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おれを軽蔑するのはやめろ。まずはおれの話を聞いてくれ。話を聞いてからなら、おれを見捨てるなり、哀れむなり、好きにすればいい。おまえの判断に任せよう。だが、まずはともかく聞いてくれ、おれの話を。

 

 ヴィクターは自分の大切な人たちの身を案じ、怪物の伴侶を創ろうともう一度死体を掘り起こした。自分の罪の尻ぬぐいの代償としてどんどんヴィクターは影を濃くしていった。

 ヴィクターの家族や友人は日に日に暗く陰鬱になっていくヴィクターを心配したが、ヴィクターは怪物の存在を誰にも言えずただ秘することしかできなかった。そうして伴侶の生命があともう少しで動き出すというとき、ヴィクターはバラバラに壊してしまうのだった。

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「呪われたる造り主よ、おまえすらも嫌悪に目を背けるような怪物を、何ゆえに造りあげたのだ?神は人間を哀れみ、自らの姿に似せて美しく魅力的に造りたもうた。だが、この身はおまえの醜悪な似姿だ。似ているからこそおぞましいのだ。サタンにさえ、同胞の悪魔がいて、ときに崇められ、ときに励ましを得ていたというのに

おれは孤独で、忌み嫌われるばかりじゃないか」

 

 怪物は約束通りヴィクターの周りの人たちを手にかけていった。ヴィクターは憎悪と復讐を胸に怪物を追いかける。その途中で出会ったのが、本書の語り部であり、若き日のヴィクターと同じ志を持った青年・ウォルトンなのであった。

 

 単純にエンタメとして読むのも楽しいのですが、いったい”怪物”とはなんなのか?ってことを掘り下げるとさらに面白いです。

 

 ヴィクターは自分で造り上げた怪物から逃げ、目を反らし、眼前に現れても否定しかしなかった。「まずは聞いてくれ」という怪物の声にやっと口を閉じた。だが、怪物が「ならば私を殺すがいい」と言ってもそれさえもしなかった。逃げることで失ったのは自分の大切な人たちであり、そうなることも怪物から宣言されていたのに、ヴィクターは己と向き合うことを避け続けたのだ。

 本書がなぜ人を惹きつけるか、それは単に"人間の禁忌の物語"というドラマ性だけでなく、人間は自分の短所や嫌な部分をヴィクターが怪物にしたように、生み出し、無視し続けてるよね、それでその部分と向き合わないから周りの人間を傷つけてるよね、っていう誰しもが持っている部分を描いているからと思います。