《内容》
横浜市青葉区で三人きょうだいの長女として育ち、県立高校を経て中堅の女子大学に入った美咲と、渋谷区広尾の国家公 務員宿舎で育ち東大に入ったつばさ。偶然に出会って恋に落ちた境遇の違う二人だったが、別の女の子へと気持ち が移ってしまったつばさは、大学の友人らが立ち上げたサークル「星座研究会」(いわゆるヤリサー)の飲み会に美咲を呼ぶ。そ して酒を飲ませ、仲間と一緒に辱めるのだ…。美咲が部屋から逃げ110番通報したことで事件が明るみに出る。 頭脳優秀でプライドが高い彼らにあったのは『東大ではない人間を馬鹿にしたい欲』だけ だったのだ。さらに、事件のニュースを知った人たちが、SNSで美咲を「東大生狙いの勘違い女」扱いするのだ。
読み手の無意識下にあるブランド意識、優越感や劣等感、学歴による序列や格差の実態をあぶり出し、自分は加害者と何が違うのだと問いかけ、気づきを促す社会派小説の傑作!
はぁ。久しぶりに胸糞悪くて一日寝込んだ。
文学の力ってすごいよね。フィクションなのに強烈にダメージ与えてくるの。
大学がアイデンティティになるのは辛いね
4年後、美咲は自問することになる。「きみに会いたいと申し出られてうれしいと感じるのは思い上がりなのだろうか。勘違いなのだろうか」と。覆面をした群衆からの避難の礫を前に。
本作は東大猥褻事件を元に書いている。
被害者となる美咲はごく普通のごく幸せな家庭に生まれた。水谷女子大に入った美咲は加害者となるつばさと出会う。出会った日にホテルに誘われ、戸惑いながらも美咲は許してしまう。二十歳を過ぎてなお、恋愛経験がなかったことや、同じグループの中でカップルができたことも美咲が焦ってつばさに心惹かれてしまった理由の一つだろう。
だが、つばさが東大かどうかは関係あったのだろうか?少なくとも本書の中で東大にこだわっているのは東大生たちであり、美咲や事件当日一緒にいたOLもそこまで気にしていなかったように思う。
つばさは美咲を好意的に思いながらも見下していた。都合良く呼び出してセックスしたり飲み会の盛り上げ道具として使った。美咲もまた、それに気付きながらそれを自分の役割だと思ったのは東大に平伏したからではなく、自分がバカだというコンプレックスでもなく、ただつばさのことが好きだったからだった。
(自分が輪姦されそうだとでも思ったわけ?あんたネタ枠ですから。だれも、あんたとヤりたいなんて思ってませんでしたから。あんたの大学で、あんたの顔で、あんたのスタイルで、輪姦されるとでも思ったんすか?思い上がりっすよ)
事件当日、美咲はつばさに誘われアパートの一室での飲み会に参加する。つばさは美咲を可愛いと思うが、つばさの仲間たちはデブでブスだと美咲を評価する。そのことで腹を立てていたつばさはいつになく美咲に冷たい。
無理難題をゲームと称して並べたて、答えに戸惑う美咲に躊躇なく酒を飲ませ、服を剥ぎ取り、あらわになった肌を強く打った。その仕打ちはひどく、引用するには気が引ける。気になる人は本書を読んでみてください。
丸裸にされて、馬乗りにされて、裸の上半身にカップラーメンをかけられて。でも輪姦されたわけではない。でも、だからって傷が浅い訳ではない。
「レイプされたわけじゃないのね、よかった」と母親は慰めてくれた。だが母親には気持ちを告白できなかった。気持ちの奥を告白して両親を悲しませたくない。自分は弟妹より5歳もお姉さんで長女だ。「レイプされたわけではないのね」と検察官は確認した。検察官は被害者の味方のはずだが、彼女もまた東大卒の怖い人だった。質問にただ答えるのが精一杯で、泣いたら軽蔑されそうだった。
一瞬の隙をついて逃げた美咲が警察に連絡をしたことで事件は発覚するのだが、相手が東大生だからなのか、場所がアパートの一室だからなのか、レイプされていないからなのか、世間の非難は美咲に向かった。
考え無しに咄嗟に電話をかけた自分がまた「頭が悪い」と思えてくる。「頭が悪い」「汚いウンコ」「クソ女」「バカ大学」「東大生の将来をだいなしにした」。いろんな声が聞こえてくる。
美咲の示談の条件は東大自主退学だったが、つばさはそれを飲まなかった。つばさは起訴されてなお、あの時なぜ美咲が泣いてアパートを出ていったのかもわからないままなのだった。
頭がいいってなんなの?って思うお話でした。愚行録も似たようなお話だったな。
美咲がかわいそうだなぁと思いました。正直美咲に落ち度があったとは思わなくて、もう運というか。美咲の描写は本当に一般的な20代前半の女性だと思います。まだ未熟な20代前半の女性のほとんどがいい人と出会うのに、美咲は運悪くやべえ奴にエンカウントしちゃったって感じ。
頭悪くないから、ただ運が悪かったんだって、自分を責めないで元気で生きていてほしい。加害者たちは数年後に見知らぬ女性から「恥を知りなさい」とバーで言われるよ。