≪内容≫
植物になりたいと願う青年。毎夜、午前一時に現れる男。言葉を探し続ける郵便局員―どこか奇妙で、愛おしい人々。切なく、温かいショート・ストーリー集。ゆるやかに連鎖していく、それぞれの人生の、50の物語。
ショートストーリーなんですが、ときたま繋がっていたりして本当に「惑いの森」という感じです。
痛い話もハートフルな話もファンタジーなお話もあります。
あと作者の話も・・・笑
50話の中から私が好きだなって思った3つのお話を書いていきます!
27 Nの失踪
"部外者"という感覚が好きなのだ。
そこに自分が属していないという意識は、自分が"観察者"であるという感覚をより大きくさせる。
失踪したい気持ちはあれど、することはないNの心情。
この"部外者"という感覚、私も好きなんです。
ドッヂボールでも外野が好きだったなぁ。
集団の中にいる自分というのがなんだか気持ち悪いというか。
日本にいると属するもの、家族とか友人とか会社とか親戚とかがあって。
でもそれが海外に行くと全くの個人でいられる。
全くの個人、つまり何の社会的価値もないただ息をしてる人間という生物。
誰に気兼ねすることもなく、誰かを傷つけることもなく、誰かを悲しませることも失望させることもない世界。
全て投げ捨ててしまいたいと思う気持ちと
そんな度胸のない自分を冷やかに笑うNに、少しだけ共感してしまった。
30 博物館
役目を終えた物達がやってくる博物館。
男は物達の世話をしていた。
役目を全う出来ずに終わらせられた物達の嘆きに自分も一緒に涙を流した。
だけどある日、女がやってきて男は変わった。
男は物達に話しかけなくなった。
物達は泣き始めた。
でももう、物達の世話をする者はいない。
男は新品のテレビを買い、妻と共に幸福に眺めた。
博物館には今でも、無数の物たちが届き続けている。
映画「トイ・ストーリー」は主人公が眠ったあと、おもちゃ達が集会をしたり冒険をしたり、人間が知らないだけでおもちゃにもおもちゃだけの世界があるというお話です。
しかし主人公が大人になるにつれて、おもちゃは不要になります。
最後は燃えるゴミと一緒になってしまいます。
人間にも泣かれたくはないけど、自分が持ってる物達にも泣いてほしくない。
自己満足なんですけどね、実家に帰るとぬいぐるみ達をナデナデしてます。
「元気だった?久しぶり」って。
あんなに小さい頃一緒にいたのに、今更知らん顔なんて「大人なんだから」と言われても出来ないくらい物との絆ってあると思います。
35 揺れる
お金を使って食糧を買い、言葉を使ってひとと繋がりを保っているというのは私の錯覚で、本当は、世界の本当は、残酷で無造作で無関心なのだということを。
自然や風景は、決して愛するものなどではなく、私達の命などいともたやすく破壊するものなのだと。
怖いものです。
長い長い年月をかけて生物は進化して、自然も変化してきた。
美しい自然を愛するのも、風景に思いを寄せるのも、自由だけどその愛は一方通行でしかないです。
私達の世界に自然が在るのではなくて、自然の中で私達が生まれたのだから。
この言葉を言った女はこの不安から解放されるために教団に入ったと言っています。
教団は不安を拭ってくれるのでしょうか。
不安は誰が受け取ってくれるのでしょうか。
残酷で無造作で無関心な世界の中で。
一時間くらいでさーっと読めてしまいました。
他にもゾっとする話や、アブナイ話など色んな話があって面白いです。
特に「Nの~」シリーズが面白いです。
最近の楽しみといったら、近くのパン屋で「明太子ロール」を買って食べることくらいなのに。
という何とも親近感が沸く。笑
一つのお話が1pで終わるお話もあるので、隙間時間に読むのにもいいと思います。
全く自分の生活に関係ない話を読むのは一日が広がると思いますので是非読んでみてください。
一日一話でも、その話を元に自分の過去を振り返ったり、空想に思いを巡らせたり、非現実にドキドキしたり・・・って、食事にサービスで小鉢がついてきたようなラッキー感があるのです。
聞こえますか・・・この本を読むのです・・・