深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

吹上奇譚 第三話 ざしきわらし/吉本ばなな~この世界は生きている人間だけが作用しているのではない~

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《内容》

吹上町の夏が終わり、引きこもりの美鈴がミミのもとを訪れた。「部屋の中に子どもの霊がいるんだ。いつも夜になると出てくる」生も死も、過去も未来も溶け合う吹上町に、新たな風が巻き起こる―人智を超えた世界の理がしみじみと胸をうつ、大好評哲学ホラー。

 

回を重ねるごとにカオスになっていく。

ざしきわらし”というワードからホラーかな!と思って手に取ったのが私の吹上奇譚の始まりだったのですが、ホラーじゃなくてもっと精神的な話なんですよね。

 

で、それが1話は自己紹介的なものもあり二話は俗的な話があり~でついてこれたんですが、3話で一気に集合意識というかもっとレベルの高いところに行ったw

 

見えない力に守られている

 

 誰も見ていなくても、必ずゆっくりとあるいは唐突に力が均されていくという法則は完璧だ。世界や宇宙のいろいろなことは、しょせん人のちっぽけな、有限の感覚では追いきれないのだろう。

 

 本作は美鈴が自分の部屋に子供がいる、それは自分が妊娠している予知だと思った。でも生理がきちゃった…ってことはこの子誰!?というところから始まる。

 

 美鈴は親には恵まれなかったけれど、弟やおばあちゃんに守られて生きてきた。まだ小さかった弟が子供となってやって来たのか、ミミは”死”とは何ぞやというものを物語の中で追いかけていく。

 

 夢の中でなら死んだ人に時空を超えて、今でも過去でもない場所で会えるのなら、いったい死とはなんだろう。

 

 ミミは自身の能力である夢見(現実を夢で知る)を使い美鈴のおばあちゃんと会う。美鈴の元にやってきたこの子供が弟なのか、もう一人の美鈴なのか、キーパーソンは美鈴のおばあちゃんだったのだ。

 

 美鈴の部屋にある美鈴が誰の目にも触れさせない大切なお人形。それを知ったミミと知られた美鈴。美鈴はミミの妹のこだちにその人形の手直しをお願いしたいとミミに言う。

 

 美鈴のおばあちゃんが美鈴のために作ったお手製の弟のお人形。このお人形の供養が今回のテーマだったのだ。きっとざしきわらしは小さな頃の美鈴で、その美鈴を教えてくれたのは前回美鈴を乗っ取ろうとした黒美鈴だったのだ。

 

 美鈴が黒美鈴の魂を身をていして救った、その行為に対する、人間には読み切れない因果応報とでもいうもの、それが時間差で意外なときにやってきたりするから、世界はいいものなのだと思う。

 

 この世界は生きている人間だけが作用しているのではない。死者の祈りが支えているものもある。”生”と”死”について考える。置いてけぼりだった小さな子供を迎えにいくこと、それは自分たちのタイミングでできることではなく、ここだ、という場所が永遠という宇宙の中で設定されているかのように。

第四話も出てるのですが、文庫で集めたいのでじっと待っています。。