《内容》
美貌の夫と安楽な生活を捨て、人生に何かを求めようとした三十九歳のポール。孤独から逃れようとする男女の複雑な心模様を描く。
サガンの本、書店だと「悲しみよ、こんにちは」と「ブラームスはお好き」しかなかったんですよね。取り寄せできるとは思うけど、「悲しみよ、こんにちは」は新訳だったから他も新訳出してほしい・・・
青春は回顧にこそある
ポールの手はロジェの手に重ねられていた。彼女はすっかり安心しきって、そして、すっかりかれになれきっていた。だれかほかの男を知ろうなどという気持には、すこしもならなかった。そして、このような安心感が彼女に寂しい幸福感をもたらしているのだった。ふたりは踊った。ロジェはしっかり彼女を抱き、フロアーの端までなんのリズムもなしに横ぎった。ひどく自分に満足した様子で……。彼女はとても幸福だった。
主人公は自立した39歳の女性・ポール。離婚歴もある彼女は今は年下の自由奔放な男・ロジェと付き合っていた。長く続くロジェとの関係は、お互いの自由を尊重しているからこそ成り立つものだったが、一人で朝を迎える寂しさをポールは感じていた。
そんなあるとき、ロジェがポールに仕事を回してきた。依頼主はロジェの昔の遊び相手だが、ポールはそんなことを気にするようなロジェの嫌いな女ではない。仕事は仕事と割り切って会いにいくと、そこで美しい青年シモンと出会うのであった。
シモンはポールを一目見た時から恋に落ち、熱烈なアピールをするが、ポールは14も下のシモンを恋愛対象としては見なかった。しかしロジェに求めることのできない寂ししさを埋めてくれたのはシモンであることをポールはわかっていた。
『ブラームスはお好きですか?』いったい彼女は自分自身以外のものを、自分自身の存在をまだ愛しているのだろうか?もちろん、彼女は自分がスタンダールを好きだと人にも言い、自分でもそう思いこんでいた。そこが問題なのだ。そう『思いこんで』いる……。もしかしたら、ロジェが好きだということも単にそう『思いこんで』いるだけなのかもしれない。
シモンから誘われた『ブラームスはお好きですか?』の一言で内省するポール。一方ロジェも嫌いだったはずの執着する女に心奪われていた。
落ち着いて自分達のペースを尊重しつつ共に歩む人生…そんな素晴らしい関係性で成り立っていたはずのポールとロジェだったが、そこには救い難い寂しさがあった。
そしてその寂しさを拭い去ったあとに残るのは決して安心ではなかったのである。
一人身でいる寂しさは寂しさに過ぎないけれど、恋人がいても感じる寂しさは寂しさだけではなく虚しさをももたらす。そんなとき、自分を熱烈に愛し、そばにいて寂しさと虚しさを取り払ってくれる人がいたら…誰でも迷うのではないでしょうか。
最後の結末がリアルで、だよねぇ…としみじみ思ったのでした。