《内容》
冷え切った空気が人の心まで凍てつかせるストックホルム。
背中にドラゴンのタトゥーを背負う天才ハッカー、リスベット・サランデルに仕事が依頼される。
人工知能=AI研究の世界的権威であるフランス・バルデル博士が開発した核攻撃プログラムをアメリカ国家安全保障局から取り戻すこと。
それは、その天才的なハッキング能力を擁するリスベットにしてみれば簡単な仕事のはずだった。
しかし――、それは16年前に別れた双子の姉妹、カミラが幾重にもはりめぐらした狂気と猟奇に満ちた復讐という罠の一部に過ぎなかった。
原作はこちら↓
原作と同じくミカエルがびっくりするほど影・・・!
今回の見どころは、今までのミカエルとリスベットの共闘ではなく、リスベットとハッカー仲間のチームワーク!
建物の監視役とスナイパーの連携がリスベットの窮地を救うシーンには大満足!
そしてやっぱり好きだ・・・リスベット・・・。
決裂は憎しみによって再び交差する
憎き親父を殺し、その後は過去の自分と同じように男に苦しめられている女を救う名もなき戦士となったリスベット。
彼女は名前こそ知られど、神出鬼没。男に殴られいいように扱われている女の元に音もなく現れては男を成敗し女を救い立ち去る。少々イコライザー的な感じである。
しかし彼女はただの救世主ではない。彼女を彼女としてたらしめているのはその天才的なハッキング能力であった。今回の依頼は弱き者を救う正義心とハッキング能力の二つを兼ねそろえたリスベットにだからこそやってきたものだった。
依頼主は各国の防衛システムに侵入し制御するためのツールを作り出した人工知能研究の世界的権威のフランス・バルデル。
バルデルは米国の要請で開発したが、その条件は自分に管理権があることだった。しかし、作り上げたあと何者かによって盗まれてしまったのだ。
つまり、もともとバルデルに作らせその後盗む魂胆でありバルデルは騙されたのだと主張する。
このプログラムで主要国の戦術核兵器に簡単にアクセスできる
個人のPCで誰もが"神のような力"を手にできる
このプログラムにかかわっていたのはリスベットの妹・カミラでもあった。
バルデルの仕掛けた巧妙な暗証番号はリスベットでも解けない。唯一解けるのはバルデルの息子・アウグストのみ。
カミラたちスパイダーズはリスベットが保護したアウグストを誘拐し何とかプログラムを開かせようとたくらむ。
リスベットはハッカー仲間と手を組み、アウグストの保護とともにバルデルの依頼を果たすべくカミラが待つ、過去自分たちが住んでいた家へと向かう。
今回の胸アツポイントはなんといってもこのハッカーたちの連携プレイ!
このプレイグは一巻目かな?ちょくちょく出てくるイメージ。さらに今回は敵の敵は味方戦法でもう一人天才ハッカーが登場します。
さらに忘れてはいけないのは、リスベットの一番の相棒であり主人公・ミカエルです。たぶんこの作品はミカエルが主人公でヒロインがリスベットなんですけどね。リスベットがあまりに強烈でかっこよくて美しいあまりに、ミカエルが影に・・・。
でも、だからこそリスベットはミカエルをどうしても断ち切れないのでしょう・・・。この作品の面白いとこの一つはこの二人の微妙な関係だったりする。
こういう微妙な関係は羊たちの沈黙シリーズのレクターとクラリスもそうかな。
ただのミステリーやサスペンスだけでなく、もう!この二人どうなってんのやぁー!とヤキモキさせるのが上手い。そしてそれが無性に切なかったり苦しかったりしててそこが美しいんですねぇ~。
ミカエルは情熱もあり正義感もある。だけど、典型的な「誰かのためになら頑張れるけど自分のためになるとさっぱり」な男。彼に必要なその「誰か」の一人になりたくない、でもミカエルの役に立ちたいと思うリスベットの不安定さとミカエルのリスベットなしでは何も書くことのできない自分、そしてリスベットの人生で自分の栄光を築くことへの嫌悪、しかし自分から生まれるものがない苦悩・・・すれちがう二人。
でも自分にないものを持っているから惹かれたりするよね。人間。
さて、一方で前回父親とともに死んだと思っていた妹・カミラの登場と彼女の語る過去に動揺するリスベット。
二人の父親の詳細は三部作で語られている。
ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下合本版) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
- 作者:スティーグ・ラーソン,ヘレンハルメ 美穂,岩澤 雅利
- 発売日: 2012/08/01
- メディア: Kindle版
リスベットは父親から逃げ出したが、カミラは一緒に行こうとリスベットが伸ばした手を拒み、父を選んだ。
なのにカミラは言う。
「なぜ助けてくれなかったの?」と。
切ない。
カミラもつらかっただろうけれど、三部作すべてを使い渾身の力で戦い抜いたリスベットを見てるから、ほかの男を成敗するのと親父と向き合うことの違いが伝わっている観客としては、あの親父と向き合うことだけは特別なことなんだよ・・・!そりゃ助けてほしいと思ってること知ってたら助けに行ってたさ・・・!とやりきれない気持ちMAX。
私このミレニアムシリーズが生まれた背景が好きなんですね。
リスベットが生まれた理由というか、この物語が書かれた必然性というか。結局のところ、リスベットは被害者だけど、自分を救えるのは自分だけなんです。一緒に戦ってくれる人はできてもその壁を乗り越えるのは一人きり。
彼女が救った女たちも、救われたからって今までの人生がなくなるわけじゃない。唐突に思い出して震えて眠れない夜があるかもしれない。過去が未来を塗りつぶしてしまうこともあるかもしれない。
そうなったとき、その苦しみは自分自身にしか理解できないし、乗り越えられない。
だけど、こうやってどれだけ苦しくても戦っている女性がいるということを知っているだけで勇気は生まれる。だから、この作品は小説でも映画でも観た後に不思議な力をくれる。それはきっと亡き作者の思いが言葉一つに、リスベットの行動一つ一つに深くしみこまれているからだと思うのです。辛いことや苦しいこと。当事者じゃないからと引かないで、その怒りを作品として世に出してくれたこと。そのすべてに感謝する。