深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

書評

山の音/川端康成〜息子の嫁に恋をする、とはこれいかに〜

《内容》 家族という悲しい幻想。夫と妻、親と子、姉と弟、舅と嫁。日本独特の隠微な関係性を暴いた、戦後文学の傑作。 深夜ふと響いてくる山の音を死の予告と恐れながら、信吾の胸には昔あこがれた人の美しいイメージが消えない。息子の嫁の可憐な姿に若々…

銃口/三浦綾子〜僕たちはどう生きるか〜

《内容》 昭和初期、軍国主義の台頭に苦しむ若き教師の物語。 昭和2年、旭川の小学生竜太は、担任に憧れる。成長し、教師になるが、理想の教育に燃える彼を阻むものは、軍国主義の勢いであった。軍旗はためく昭和を背景に戦争と人間の姿を描いた感動の名作。…

オリガミ/辻仁成〜愛は暴力に似ている〜

《内容》 角膜移植で光を取り戻したヴァレリーは術後、不思議な男性の幻を見るようになる。彼は誰? ブリュッセルの女と東京の男が運命によって呼び合わされたとき……幸せの予感に満ちあふれた、極上の愛の物語。 むかーし、まだ小中学生くらいの頃、金曜ロー…

英国諜報員アシェンデン/サマセット・モーム〜人は揺り籠から墓場まで、束の間の人生を愚かに過ごして命を終える〜

《内容》 時はロシア革命と第一次大戦の最中。英国のスパイであるアシェンデンは上司Rからの密命を帯び、中立国スイスを拠点としてヨーロッパ各国を渡り歩いている。一癖も二癖もあるメキシコやギリシア、インドなどの諜報員や工作員と接触しつつアシェンデ…

月と六ペンス/サマセット・モーム〜芸術家は、作品だけでなく自分自身をも投げ出す〜

《内容》 その絵を描いたのは、知ってはならない秘密を知った罪深い男だ。あるパーティで出会った、冴えない男ストリックランド。ロンドンで、仕事、家庭と何不自由ない暮らしを送っていた彼がある日、忽然と行方をくらませたという。パリで再会した彼の口か…

白い人・黄色い人/遠藤周作〜私は、幻影を抱いて生れ、幻影を抱いて死ぬ人間たちに復讐する〜

《内容》 第2次世界大戦中のドイツ占領下のリヨンで、友人の神学生をナチの拷問にゆだねるサディスティックな青年に託して、西洋思想の原罪的宿命、善と悪の対立を追求した「白い人」(芥川賞)汎神論的風土に生きる日本人にとっての、キリスト教の神の意味…

星の王子さま/サン=テグジュペリ〜世の中には、間違いなく大人になってから読んだ方がいい児童書がある〜

《内容》 いちばんたいせつなことは、目に見えない世界中の言葉に訳され、70年以上にわたって読みつがれてきた宝石のような物語。今までで最も愛らしい王子さまを甦らせたと評された新訳。これまでで最も愛らしく、毅然とした王子さまが、優しい日本語でよみ…

カメレオンのための音楽/トルーマン・カポーティ〜カポーティが生涯イノセントを愛していたことがよくわかる〜

《内容》 現実にあった残虐な連続殺人と刑事の絶望的闘いを描く中篇「手彫りの棺」。悪魔と神、現実と神秘の間に生きる人間を簡潔、絶妙に描く表題作など珠玉の短篇群。M・モンローについての最高のスケッチ「うつくしい子供」など、人の不思議さを追及した…

聖書を語る/佐藤 優, 中村うさぎ〜エヴァとサリンジャーは、全く同じ到達点を目指してる〜

《内容》 第一章では、カルヴァン派の佐藤氏とバプテスト派の中村氏が、同じプロテスタントでありながら宗派によって異なる、他力本願と自力本願、終末論など神学的な問題を語りあう。第二章では村上春樹の『1Q84』、サリンジャー、『新世紀エヴァンゲリオン…

地雷グリコ/青崎有吾〜馬鹿と煙は高いところが好き〜

《内容》 ミステリ界の旗手が仕掛ける本格頭脳バトル小説!射守矢真兎(いもりや・まと)。女子高生。勝負事に、やたらと強い。平穏を望む彼女が日常の中で巻き込まれる、風変わりなゲームの数々。罠の位置を読み合いながら階段を上ったり(「地雷グリコ」)、百…

オーバーヒート/千葉雅也〜男が二人で生きるとは、共に、少し遅めに落ちて行くことだ〜

《内容》 行きつけのバー、年下の恋人、故郷の家族と友人たち……。かけがえのない日々を描き、芥川賞候補となった傑作恋愛小説。川端賞受賞の名短篇「マジックミラー」併録。「新書大賞2023」受賞『現代思想入門』の著者による文学の最前線。 デッドラインよ…

デッドライン/千葉雅也〜男たちが女しか好きにならないなんて、僕を騙すための壮大なドッキリなんじゃないかと思う〜

《内容》 気鋭の哲学者が放つ、疾走感あふれる青春小説。野間文芸新人賞受賞!2001年の春、現代思想を学ぶ「僕」は、大学院修士課程に進んだ。友人の映画制作を手伝い、親友と深夜のドライブに出かけ、家族への愛と葛藤に傷つき、行きずりの男たちと関係を持…

ひつじが丘/三浦綾子〜愛するとはゆるしつづけることだよ〜

《内容》愛とはゆるすことだよ、相手を生かすことだよ……つらくよみがえる父母の言葉。良一への失望を胸に、奈緒実は愛することのむずかしさをかみしめる。北国の春にリラ高女を巣立った娘たちの哀歓の日々に、さまざまの愛が芽生え、破局が訪れる。真実の生…

塩狩峠/三浦綾子〜人がその友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない〜

《内容》 誠の心、勇気、努力。大勢の乗客の命を救うため、雪の塩狩峠で自らの命を犠牲にした若き鉄道員の愛と信仰に貫かれた生涯を描き、人間存在の意味を問う。結納のため、札幌に向った鉄道職員永野信夫の乗った列車は、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突…

賢者の贈りもの: O・ヘンリー傑作選I〜色褪せない名文たち〜

《内容》 クリスマス、若い夫婦に感動の奇跡が訪れる――。アメリカの短篇を代表する作家の名作16作品を新訳で! まさに珠玉、シリーズ第一集。デラはおんぼろカウチに身を投げて泣いていた。明日はクリスマスというのに手元にはわずか1ドル87セント。これでは…

男と点と線 /山崎ナオコーラ〜セックスしなくても人と繋がれる〜

《内容》 大人にしか、わからない世界がある。上海、NY、東京、ワールドエンド……いまもどこかで男女がくっつき、繋がりあっている。地球規模の恋愛・関係小説。 何もないことを書く、という独特な作家さんだなぁ〜と思う。 読みやすいけれど、独特。不思議な…

このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16,1924年/ サリンジャー 〜楽しかったことは何ひとつ忘れられないんだ、だからもどってきてほしい〜

《内容》 サリンジャーが封印したシーモアとホールデンもうひとつの「ナイン・ストーリーズ」ああ、人生って、目を見開いてさえいれば、心躍る楽しいことに出会えるんだね――。「バナナフィッシュにうってつけの日」で自殺したグラース家の長兄シーモアが、七…

孤独の歌声/天童 荒太〜孤独から逃れようとするとどんどん狂っていく〜

《内容》 街を流離(さまよ)う傷ついた魂たち――。“都会の孤独"の本当の意味を知る。凄惨な殺人事件が続発する。独り暮らしの女性たちが監禁され、全身を刺されたかたちで発見されたのだ。被害者の一人が通っていたコンビニエンス・ストアの強盗事件を担当した…

母性/湊かなえ〜女はたくましく男は全く役に立たない〜

《内容》 女子高生が自宅の中庭で倒れているのが発見された。母親は言葉を詰まらせる。「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」。 世間は騒ぐ。これは事故か、自殺か。……遡ること十一年前の台風の日、彼女たちを包んだ幸福は、突如奪い…

六番目の小夜子/恩田陸〜彼らはずっと『彼女』を待っている〜

《内容》 津村沙世子――とある地方の高校にやってきた、美しく謎めいた転校生。高校には十数年間にわたり、奇妙なゲームが受け継がれていた。三年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が、見えざる手によって選ばれるのだ。そして今年は、「六番目のサヨコ」が誕生す…

シンプルな情熱/アニー・エルノー〜彼は、彼自身の知らぬ間に、私を以前より深く世界に結びつけてくれた〜

《内容》 「昨年の九月以降わたしは、ある男性を待つこと──彼が電話をかけてくるのを、そして家へ訪ねてくるのを待つこと以外何ひとつしなくなった」離婚後独身でパリに暮らす女性教師が、妻子ある若い東欧の外交官と不倫の関係に。彼だけのことを思い、逢え…

列/中村文則〜せっかく生まれてきたのだから、楽しく、あれ〜

《内容》 男はいつの間にか、奇妙な列に並んでいた。先が見えず、最後尾も見えない。そして誰もが、自分がなぜ並んでいるのかわからない。男は、ある動物の研究者のはずだった。現代に生きる人間の姿を、深く、深く見通す――。競い合い、比べ合う社会の中で、…

1922/スティーヴン・キング〜証拠は土の下にあっても、真相は一生つきまとうのだ〜

《内容》 かつて妻を殺害した男を徐々に追いつめる狂気。友人の不幸を悪魔に願った男が得たものとは。巨匠が描く、真っ黒な恐怖の物語を2編。 キングの作品をちょこちょこ読むのが楽しみになっている。 まだまだ先のことだけど、キングの作品全部読んじゃっ…

蜜蜂と遠雷/恩田陸〜音楽という、その場限りで儚い一過性のものを通して、我々は永遠に触れている〜

《内容》 近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。自宅に楽器を持たない少年・風間塵16歳。かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。楽器店勤務のサラリーマン・高島明石28歳。完璧な技術…

羊と鋼の森/宮下奈都〜人は皆それぞれの森を歩いている〜

《内容》 第13回本屋大賞、第4回ブランチブックアワード大賞2015、第13回キノベス!2016 第1位……伝説の三冠を達成!日本中の読者の心を震わせた小説、いよいよ文庫化!ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれ…

マリアージュ・マリアージュ/金原ひとみ〜男というアイテム〜

《内容》 他の男と寝て、気づく。私はただ唯一夫と愛し合いたかった――。結婚の後先を巡る六篇。キスをして抱きしめられ、初めて普通の状態になれたあの頃。今の私は年下の彼に、昔の自分を重ねてしまう(「試着室」)。私の性を抑圧し続けてきた、私に対して…

火口のふたり/白石 一文〜セックスが僕らに何をもたらすか〜

《内容》 挙式を控え、忘れられない従兄賢治と一夜を過ごした直子。出口のない男女の行きつく先は?不確実な世界の極限の愛を描く恋愛小説。 昔映画を見たんだけど、なんかずっとセックスしてるだけ、っていう印象しか残らなかった。いや、んなわけあるかい!…

淑やかな悪夢/シンシア・アスキス他 〜読む者の正気を失わせる小説とはこれいかに〜

《内容》 神経の不調に悩む女にあてがわれた古い子供部屋。そこには、異様な模様の壁紙が貼られていた……。“書かれるべきではなかった、読む者の正気を失わせる小説”と評された、狂気と超自然の間(あわい)に滲み出る恐怖「黄色い壁紙」ほか、デモーニッシュ…

AM / PM /アメリア・グレイ~人は生きていく中で、その小さな歪みに絶え間なく出会う~

《内容》 このアンバランスな世界で見つけた私だけの孤独————箱に閉じ込められてしまったふたりの男、朝起きたら種に覆われていた女、テスの手は鉤爪に変わり、フランシスは魚しか食べないことにした……。AMからPMへと、時間ごとにゆるやかに奇妙にずれていく…

共喰い/田中慎弥〜逃げ場のない血と性の問題〜

《内容》 一つ年上の幼馴染、千種と付き合う十七歳の遠馬は、父と父の女の琴子と暮らしていた。セックスのときに琴子を殴る父と自分は違うと、自らに言い聞かせる遠馬だったが、やがて内から沸きあがる衝動に戸惑いつつも、次第にそれを抑えきれなくなって─…